映画監督の新藤兼人の「老人読書日記」(岩波新書)をやっと読み終える。ちょっと時間がかかってしまった。北町図書館で借りて、延長して読んだ。
この本は、新藤兼人が88歳の時に書いたもの。既にご令閨の女優乙羽信子さんが鬼籍に入ってしまっていて、独居老人の生きざまが、88歳の映画監督の夜にしのびよるすさまじい孤独が、読書に癒されたことが詳しく書かれていた。「いまわたしは本物の孤独に襲われている。こいつは姿なき怪物だから、たたかいは容易ではない。何をもってたたかうか。」と冒頭に触れている。
長生きをするというのはどういうことなのか。身体能力の低下、収入の有無、そして、孤独との闘いが待ち受けている。独居老人だった母のことをふと思い出して、新藤監督の生活の様子と重なってしまった。母を独居老人にした報いは、いつの日か自分に還ってくるものだと思う。88歳の生活など考えたこともないが、長生きしてればやってくる年齢だ。
新藤監督は、1933年、尾道の兄宅に居候中に見た山中貞雄の映画『盤獄の一生』に感激し映画を志したといわれてる。だからか、この本は、戦中、若いときに京都で、溝口監督に師事してシナリオ修行をしていた頃からの読書生活を思い出しながら、その日記は始まる。西田幾多郎、宮本武蔵、上田閑照、島木健作、ドストエフスキー、小林秀雄、谷崎潤一郎、早乙女勝元、シェークスピア、ラスコーリニコフ、永井荷風、夏目漱石、テネシー・ウイリアムス、チェーホフ、マイケル・ギルモア、ユージン・オニール、広津和郎、澤地久枝、本田靖春、山内久、北岡信夫等々の本の出会いと自分史が綴られている。
つい最近、知ったことだが、新藤兼人監督は、96歳になるが、「石内尋常高等小学校花は散れども」の撮影を終えた。名匠が撮ったのは、自身の人生に影響を与えた小学校教師がモデルの人間ドラマで、理想の教師像を追求した作品。念願の企画だったとか。今年の秋に公開予定。
しかし、96になってもまだ仕事をしているのには驚く。とても真似などできるわざではないが、この監督を突き動かしている闘いのパワーは、この老人読書日記で納得できました。
新藤監督いわく: 「子供が家庭を出て、最初に飛び込む社会が学校です。その時に、親や兄弟とは違う存在として、教師と出会う。映画のモデルとなった恩師は、『人間はみな出世して、偉くなるわけではない。正しく生きるのが一番だ』と語ってくれた。平凡だが、素晴らしい一生を過ごした先生の生き方は、私の人生に強い影響を与えた」。